スタンダール「赤と黒」

〜全人類マストな恋愛小説〜
今さら語るまでもない世界文学の傑作。2007年に出た野崎歓の新訳が誤訳だという話で話題になったが、僕が読んだのは学研の世界文学全集に収録されている古屋健三訳。

赤と黒〈上〉 (岩波文庫)

赤と黒〈上〉 (岩波文庫)

フランス文学の傑作。ナポレオンを崇拝する貧しい少年、ジュリアン。貴族階級が終末を迎えようとする19世紀のフランスで、僧侶として身を立てた彼は高尚な野望を胸に上流社会へ切り込んで行く。彼の中で渦巻く恋愛感情は加速しながら激動の時代に慄然と立ち上る。彼を通じて一つの時代を書ききったスタンダールの代表作。

本当に色々な対比がつまっている小説だ。貴族と平民、富める者と貧しい者、愛する者と愛される者、過去の者と現在の者という様々な「赤と黒」が次々と主人公・ジュリアンの前に立ちはだかる。大作なのでそれらの要素全てを一読で噛み砕くのは難しいし、なにより書かれてからの170年以上の意識差は壁になる。しかし、それでも僕がこの小説を読み込んで電車を乗り過ごしてしまったのは今も普遍的な価値を持つ恋愛小説としての「赤と黒」があったからだった。
主人公のジュリアンはナポレオンオタである。選択の岐路にたったときも「ナポレオンならこんなときこうしただろう」と考える彼が「女の心を征服したい」という野望を胸に抱くのは不自然じゃない。そんな彼の恋の相手となる女性はこの物語に二人出てくるのだが、こいつらがまたキャラ立ちしてる。一人は地元有力者の妻、つまるところ人妻である。マザコン要素たんまりな優しさがジュリアンを包む。もう一人は貴族の娘でツンデレ属性。ジュリアンを低俗と思い込もうとするが結局デレる。この二人の心を深い洞察と分析で巧みに掴んでいくというエロゲ的な恋愛展開は相当に読ませる。
赤と黒」を恋愛小説として見るとその完成度は相当なものだ。こういうのは時代に関わらず普遍に楽しませるが、なによりこれだけのものをあの時代に完成させたスタンダールはやはり偉大だといえよう。全人類マストな恋愛小説、それが「赤と黒」だ。