佐藤春夫「美しき町」

〜建築マニアの幸福な小説〜
佐藤春夫がどんな作家かと定義するのは難しい。大正中期から昭和30年代と活動期間が長く、「田園の憂鬱」のような純文学作品から「神々の戯れ」のようなエンターテイメント色が強い作品まで広い作風で小説を書き、詩人でもあった。
そんな佐藤春夫は普段から「作家よりも建築家になればよかった」とぼやくほどの建築オタ。彼のその趣味が溢れ出し、しかも文学的に高い完成度を持つ未曾有の小説、それが1919年に書かれた「美しき町」だ。

佐藤春夫 (ちくま日本文学全集)

佐藤春夫 (ちくま日本文学全集)

美しき町
画家である主人公は資産家となった旧知の友人・川崎と再会する。川崎はこの資産を使って東京の一角に理想都市区画を建設する計画に主人公を誘う。場所の選定、老建築技師の参加、そしてミニチュアの完成模型の作成などを経て計画は着実に進んでいく。ところがある日、川崎の口からこの計画の驚くべき事実が話される。

長い作品ではないがその中にかなりたくさんの要素が詰まっていて読者を次々と刺激してくれる。何より純文学とエンターテイメントの折衷的なところを狙ったバランス感覚が心地よく、建築関連の描写は相当マニアックで実にリアルでそそられる。実際、大正のこの時期は五島慶太田園都市計画にしろ武者小路実篤新しき村にしろ個人中心の大規模プロジェクトが特別突飛というわけではなかった。もちろん構成も秀逸で、衝撃的な展開から導きだされる佐藤春夫らしい味わい深い読後感は小説として至高の出来だ。
SF的発想とリアルをうまく織り込んだ「美しき町」はラノベ好きから文学オタまでも満足させ、しかも作者がばっちり趣味を発揮できたという点で非常に幸福な小説と言えるだろう。

西森博之「お茶にごす。」

西森博之のマンガ方法論〜
今日から俺は!!」「天使な小生意気」といったヒット作を続けた西森博之は一軍は張らないけれどもしっかりと固定ファンがいる漫画家だろう。彼のマンガは不良とケンカが絶対に出てくるのにマガジンのマンガのような泥臭さはまったくない。決して絵はうまくないし、萌え路線狙いもしてないのだがそれが妙な味になっている。ギャグのセンスも下品ではなく、しかしあとに残る絶妙な空気感があり、そこらへんはサンデー伝統の色がどっぷりと感じられる。そんな西森博之の現在連載中作品が「お茶にごす。」だ。

お茶にごす。 1 (少年サンデーコミックス)

お茶にごす。 1 (少年サンデーコミックス)

中学時代、「悪魔(デビル)まークン」と恐れられた最強の不良・船橋雅矢。しかし彼は、平穏で心豊かに生活したいと願っていた。そして高校入学とともに出会ったのが、“茶道部”。不良をやめ、茶の道を歩むことを決めた雅矢は果たして……!?「ワビ」とか「サビ」とか…と不良魂が激突する新学園コメディー!!

西森博之のマンガは基本構造がどれもそんなに変わらない。「不良だがいい奴」な主人公を中心に個性的なキャラが絡むことによって話が進む。しかしそこにマンネリを生じさせないのは魅力的なキャラ作りが上手いからだ。どのキャラも一人で話が出来上がるくらいに個性的なので群像劇的手法による多種多様なバリエーションの話を読むことができ、絵的な特徴を打ち出しすぎない絵柄はキャラクター性を浮き上がらせるのに一役買っている。そして特に「お茶にごす。」は女の子が可愛い。これも作り込みの成果だろうけれど、確実に萌えられるキャラクター作りが出来ている連載少年マンガは現在そんなに多くない。
また同じような話かよ、と思う人も多分読み出せば面白いと思ってしまう上手さがこのマンガにはある。不良バトル漫画でありながら萌え漫画でもあるという独自路線をひた走る「お茶にごす。」の波及範囲はかなり広いんじゃないだろうか?

佐藤栄作の外交文書

〜本当に必要な政治〜
騒がれている佐藤栄作関連のニュース。以下読売から引用。

佐藤首相「核報復」要請、65年訪米時の外交文書公開

中国による初の核実験直後の1965年1月に、就任後初めて訪米した佐藤栄作首相が、ジョンソン政権のマクナマラ国防長官との会談で「(日本が核攻撃を受けた場合は)アメリカが直ちに核による報復を行うことを期待している」と述べ、洋上の米軍艦船からの核兵器による報復攻撃を具体的に求めていたことが、外務省が22日付で公開した外交文書で明らかになった。

ジョンソン大統領との首脳会談では、米国の「核の傘」を確認していたことも日本側文書で裏付けられた。

佐藤首相は、1月12、13両日にジョンソン大統領、13日にマクナマラ国防長官と会談した。会談記録によると、12日の大統領との会談で、首相は64年10月、中国が行った核実験を念頭に日本に対する「核の傘」の確証を求め、大統領から「私が保証する」との言質をとった。

これを受けたマクナマラ長官との会談で、首相は「(日本への)核兵器の持ち込みということになれば、安保条約で(事前協議の必要性が)規定されている」と前置きした上で、「戦争」になった場合、アメリカは直ちに核攻撃も含めた反撃を行うよう要請した。

さらに、首相は「洋上のもの(核搭載艦船)なら直ちに発動できるのではないか」と有事の際、領海内への核持ち込みを容認したとも受け取れる発言もしていた。長官も「洋上のものについては何ら技術的な問題はない」と応じた。

なんか平和団体とかが騙されてたって騒いでるみたいだけど、佐藤栄作がいかに優秀な政治家だったかってことがわかる資料じゃないか?
普通に考えて「日本が中国に核やられたらアメリカが核でやり返してくれよ」なんて主権国家が言える台詞じゃねえ。それを承知であくまで「アメリカの核の傘の下で生き残る」っていうスタンスを絶対的なものにしようとしたのはすごい。
あの冷戦マックスの50〜60年代に日本が内政内需に集中して成長できたってのはアメリカの核傘下に堂々と入ってられたからってのは間違いないと思うし、非核三原則みたいなどう考えたってファンタジーを表明しつつも水面化ではしっかりと核抑止力を確実なものとして準備する。これが政治だろう。綺麗ごとの実践で生き残れたほどあの時代は甘くなかったはずだ。
憲法九条擁護派とかにも言えることだけど政治は文学じゃない。
理想論で国民を破滅に巻き込んじゃヒトラースターリンとやってることは変わらない。

SONY・MDR-XB700

ソニーヘッドホンの系譜〜
MDR-Z700DJというDJモニターヘッドホンを5年ほど普段使いしている。ほとんど不満はないのだが製品の用途上締め付けが強く、PCで長時間使用すると耳が痛くなるのがネックだった。もっとコンフォートに使えて低音が出るやつはないかなーと思ってたらソニーからちょっと良さげなヘッドホンシリーズが。
先月発売のXB(エクストラベース)シリーズと名うたれたMDR-XBシリーズ。最下級グレードのMDR-XB300は5000円切りということで安いソニーヘッドホンぶっ壊れの豊富な経験を持つ僕としてはちょっと買いたくないので、とりあえず最上級モデルMDR-XB700をチェックしてみた。

XBシリーズ | スペシャルコンテンツ | ヘッドホン | ソニー
とりあえず実物はかなりデカい。びっくりした。クラブミュージック好きを狙っているからそこは別にいいのかもしれないけどちょっと引いてしまう。アルミ素材が強調されているデザインも使い古された印象を受けるが、あんましオシャレ狙いしすぎてないところはソニーのヘッドホンっぽくて好感を持てる。着け心地はパッドがフワフワで長時間でも快適そうだ。
で、肝心の音。なるほどかなり低音は出る。ガチのモニターヘッドホンのカツカツの固い低音じゃかなくてかなり演出された深みのある低音。ベースもかなりくる。高音も特に違和感なく聴けるが女性ボーカルでの艶が足りない感じは残念。そこを犠牲にしてでも低音が欲しい人のヘッドホンなので当然といったら当然だが。
惜しいのは畳めないこと。なんだかんだで使用しないときにカバンに入る安心感ってのは重要だと思う。あとやっぱり大きさはネック。外での着用はちょっと冒険する勇気が必要になる。
総合的にいいヘッドホンだと思うし、値段からしても十分満足できるだろう。モニターヘッドホンみたいな業務用ばっかりだった低音ヘッドホンに選択肢が増えたのは良かったんじゃないだろうか。
気になった人は銀座のソニービルに行けばいじれますよ。

SOUNDS GOOD渋谷店

セレクトショップの新しいマネジメント〜
渋谷公園前通りにあるセレクトショップ、SOUNDS GOOD渋谷店はUNITED ARROWSが展開するSOUNDS GOODの最新店舗である。

http://www.sounds-good.jp/index.html
通常のUNITED ARROWSよりもちょっとスポーツよりのラインなのかな?商品はとりあえず置いといて面白いのは店内のレイアウト。美術系学校の学園祭のような展示方法が試されている。例えば高校にあったようなロッカーにシューズが入っていてその上に漫画が並んでいたり、ぼろ布を張り合わせたようなテントが置いてあったり。押し付けがましい「おしゃれ感」じゃなくてどこか適度にドレスダウンされた、けれども他の店では絶対にない独特のコンセプトが貫かれている。
セレクトショップとは名ばかりのドメブラ販売中心となった感がある日本の大型セレクトショップ。今後飽和化したときに、どうやってブランド力を維持していくのかが各社の課題だろう。SOUNDS GOOD渋谷店はそれに対する回答の一つであるように思う。
服を買わなくても楽しめる、というショップのコンセプトは口コミという宣伝媒体で大きな効果を生む効果も望める。
服が欲しい人じゃなくても空間デザインやアートマネジメントに興味のある人はぜひ覗いてみてほしいショップだ。

非モテSNS

カウンターカルチャーSNS!〜
mixiの入会基準が極端に緩和されるのが話題となっている。ただでさえ犯罪表明が頻発し、個人情報流出の最前線になっているのに本当に大丈夫だろうかとは思う。ま、それはそれでネタになるからいっかなって気もする。そんな混迷のSNS界に降り立った漆黒の天使が「非モテSNS」である。

匿名が基本のモテない人コミュニティ | 非モテ+
非モテが集まって傷を舐めあったりする究極のSNS」と名うたれている。まじかっけえ。この恋愛至上主義もとい恋愛資本主義がうずまく昨今、ここまで割り切ったコミュニティはすがすがしい。実際のところ相当反響があるようで登録者は2000人を早くも突破したとか。
「モテないことへの団結」って2ちゃんねるの「もてない男板」を見ても思うのだがすごい一体感があって楽しい。男子校のノリ的な楽しさがある。
ちなみに彼女が出来たら即退会らしいからリア充は冷やかしにいくなよ!

明日のコンステレイション

興味を持ったモノごとを明日に備えて集約する。
一見無造作に散らばるモノごとが、じつは意味ある配置だと気がつくこと。それがコンステレイション。
明日のコンステレイションに気がつく為に日々前進する、そんなブログ。